どこまでも歩いていく

歩きながら考える。主に山登りとか。

実録 富士登山2022 〜3776ルート編〜 ①

最近はお天気も良く暖かい日が続き、11月に突入したことを忘れてしまいますが、現実は2022年も終盤に差し掛かり「今年も大して何もせずに過ごしてしまったなー」と毎年繰り返しているこの呑気なフレーズの到来を確かに感じている今日この頃。そんな色彩のない日々を多少は今年のイベントとして花を添えてくれたであろう富士登山を9月に行って参りましたので書き綴らせていただきます。長くなる気しかしないので、タイトルには①を付けておきます。

富士登山と言っても、変人の象徴のような僕は普通に登る気はございません。今回は一番下、標高0mからです。各登山口の五合目を発着の起点とするノーマル登山は既に過去2度吉田ルートで経験しており、初登頂を達成したのは確か24歳のまだろくに登山などしたことがなかった時分だと記憶しています。初めて富士山を登った後の感想は「二度と登りたくない」でした。なかなか辿り着かない山頂、予想以上に遠い最高地点剣ヶ峰、高山病による頭痛、一生続くのではないかと絶望を感じるつづら折りの下山道など、当時若輩者である僕を苦しめる要素は十分過ぎるほど満ち溢れていました。しかし、あら不思議、それから10年ほど経ちまして経験を積み、今では標高0mから登ろうなんて考えておられます。この海抜0mからスタートし、富士宮ルートを経由して山頂を目指すコースは「3776ルート」というのものが公に存在します。

暇人代表として普段何も考えず時間を無駄にして生きていると、ふと自分がどこまで出来るか試したくなる気分に駆られることがございます。それは歳をとると尚更です。大人の階段の節目である30歳という特別な誕生日に、僕は思い立って群馬の山の方から高崎駅まで約40km歩くという意味不明な挑戦を行いました。途中疲労でふらふらになり道路にそのまま座り込むほどでしたが、何とかやりきり、まだまだわしも若いな、などと愉悦に浸った覚えがあります。ということで、30も半ばに入りコロナ流行後の2020年以降、順調に惰眠を貪り続けた腕前を存分に発揮します。

3776ルートの概要を公式サイトから引用すると、起点(スタート)はふじのくに田子の浦みなと公園もしくは富士塚という場所のどちらかで、終点(ゴール)は富士山頂 (3776m)の全長約42km。推奨日程は3泊4日。ほうほう、3泊4日って。またルートマップを見ると32〜33kmまでは登山道ではなく車道歩きのようです。これはもはや登山なのかと疑問に思ってしまいますが、そこは心の奥底にしまっておきます。ホームページを見ると何やらスタンプラリーがあり、コースの途中にチェックポイントが設けられており、全て達成すると挑戦達成バッジなるものがもらえるとのこと。これはやるっきゃない。また、事前に挑戦計画書を提出した後に達成すれば挑戦達成証ももらえるそうですが、僕は挑戦する日の直前に思い立ったため計画書は提出せず。

まずはスタート地点をどちらにするかの選択ですが、電車で出発地点に向かうこともあり、駅に近いという理由で富士塚から始めることにしました。富士塚は入り口に鳥居があり中央には5m程の高さに浅間神社の祠が祀られている厳かな場所です。ふじのくに田子の浦みなと公園は海に接している雰囲気の良い公園のようです。過去挑戦された方の体験談を読むと、富士塚からスタートする場合であっても少し離れた海まで行き、海水に触れてからスタートするそうです。海=海抜0mになります。また、人によってはすくった海水を富士山頂まで運ぶ方もいらっしゃるとか。これはなかなか面白い、是非真似させてもらおう。

次は何時に出発するかです。出発時刻を算定するには、ゴール地点や終了予定時刻から逆算する必要があります。起点からの往復となると84kmという驚愕のロングディスタンスになってしまい、さすがにそれは毎日大好きなお菓子やアイス、炭酸飲料を頬張るノンアスリートの小生には自信がありません。また、本人は日帰りで挑戦する気しかありません。その為、今回のゴールは通常の富士登山の起点である吉田ルートの富士スバルライン五合目にしました。それでも富士塚〜山頂〜富士スバルライン五合目で総距離は50km近くになるようで、これは30歳の誕生日に実施した群馬の40kmを超える挑戦になります。そもそも、群馬の40kmは基本的に山から市街地方面へ標高を落とす下りが中心。今回は全く別物になることでしょう。帰りは富士スバルライン五合目から駅までバスに乗る予定で、最終のバスの時間は17:00台のようです。その後、GoogleマップやらYAMAPやらを駆使し、かつ自分のペースを考慮すると弾き出された所要時間は15時間前後。当初は最終バスに間に合えばいいと思っていたので日付が変わる午前0時頃に出発すればいいかなと思っていましたが、帰りに温泉に寄りたいのと、できればさっさと帰りたい(こっちの方が強い)、また万が一のことを考慮して少し早めの午後8時頃に出発することにしました。

不安要素はただひとつ、天気予報にて台風が近づいていると叫ばれていることです。予定を1日前倒しすると天気はまだ良いようですがその日は夜勤明けで、さすがにそれでは体力的に今回の大試合は挑めない。となるとその翌日になりますが、明らかに前日と比べると悪い予報が出ております。しかし、ここは苦渋の決断になりますが天候より体調を優先することにしました。なぜそんな天候不良の日をわざわざ選択するかと申し上げると、単純に富士山の開山期間が終わってしまうからです。閉山後は山小屋も基本的に閉まり、また、9月2週目までに挑戦しないと挑戦バッチももらえなくなってしまいます。山小屋が営業しているということも非常に重要です。今回長距離かつ長時間の挑戦となる為、できる限り軽量装備で挑みます。その為、持参する行動食や水は最低限にとどめ、不足分は前半はコンビニ、後半は山小屋で補給する予定です。その山小屋が営業していないと後半にエネルギー源となる飲食物が足りなくなる恐れがあります。また、富士山は誰もがご存知日本一の標高を誇る山。過去2回8月に登っていますが朝方は特に冷え気温は真夏でも一桁になります。ましてや今回は9月に入っています。レインウェアや手袋等の防寒着は必須。天気予報では曇りということもあり、軽量を優先しレインウェアのパンツは不要かな、とよからぬ考えが一瞬頭をよぎりましたが持参することにしました。この選択が後に非常に重要になるとはこの時は当然知る由もなく。防寒着やレインウェア、行動食、モバイルバッテリー、財布を入れただけで、今回の挑戦の為に準備したと言っても過言ではないノースフェイスの16lのザックはパンパンで山に向かう前から悲鳴を上げていました。

挑戦日までに職場の同僚へ富士山にゼロから登ると言いふらして自らを鼓舞します。吹聴した後の皆様の「え、すごい。」という言葉のおかげてここまで生き延びることができてております。

当日、東京駅から三島駅まで新幹線に乗り、そこから在来線に乗り換えてスタート地点の最寄駅である吉原駅まで向かいます。東京駅で購入した崎陽軒のシュウマイ弁当を新幹線の車内で美味しく頂き旅行気分を満喫し、これから50kmに届こうかという距離を夜通し挑む地獄のような現実にはいったん目をつぶります。平日夕方の自由席に乗っていたので車内は満員でした。

そして、吉原駅に到着。いよいよ挑戦が始まります。

 

つづく